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哺乳類の性いろいろ ― 卵を産むもの、歌うもの、貯めておくもの

⏱ 読む時間の目安:約7分

このシリーズでは、ここまでサルや大型のサル(類人猿)の仲間を中心に見てきました。今回は少し視野を広げて、サルの仲間(霊長類)以外の、お乳で子を育てる動物(哺乳類)をのぞいてみます。同じ哺乳類でも、子の増やし方、相手の選び方、子育てにかける時間は、おどろくほどばらばらです。編集部が調べて、研究論文で確かめられた話を中心に紹介します。

ウサギとネズミ:「早く、たくさん」という生き方

ネズミやウサギのような小さな哺乳類は、食べられる側に回ることが多く、一生も短めです。そのため、短い期間でおとなになり、一度にたくさんの子を産み、それを何度もくり返します。「早く、たくさん」という作戦(戦略)です。一匹一匹の子に長く手をかけるより、数で次の世代につなぐやり方です。

ウサギには、もうひとつ面白い特徴があります。ヒトやマウスのように、体の中のリズムに合わせて、決まった間隔で卵子が出てくる(排卵する)動物は、「自然排卵」の動物と呼ばれます。一方ウサギは、交尾の刺激をきっかけに排卵が起こる「交尾排卵(誘起排卵)」の動物です。相手と出会えた時に、確実に卵を用意できる、むだの少ないしくみといえます。ラマやアルパカも同じ仲間です。これらの動物では、オスの精液にふくまれるβ-NGFという物質が、排卵を後押しすることが分かってきました(Ratto ら, 2019)。ただし、このまとめの論文(総説)自身が認めていることもあります。交尾がどうやって排卵の引き金になるのかは、まだよく分かっていない。そして、種によってしくみが違うようだ、ということです。

ゾウ:22か月の妊娠と「マスト」

反対の端にいるのがゾウです。ゾウの妊娠期間は平均でおよそ640日、じつに22か月近くにもなります。ドイツの研究チームは、超音波の検査で、卵をつくる器官(卵巣)と子宮を、毎週のように観察しました。そして、ゾウは一度に1頭しか身ごもらないのに、卵巣に黄体(妊娠を支えるホルモンを出す組織)を平均5個ほど作り、それを出産まで保ち続けることを示しました(Lueders ら, 2012)。ゆっくり育つおなかの赤ちゃん(胎子)を、いくつもの「支え」で長いあいだ守るやり方です。ただ、くわしく測れたのは、人に飼われている(飼育下の)アジアゾウ5頭が中心です。野生のゾウや、一頭ごとの違いまでは、十分に分かっていないです。

オスのゾウには「マスト」と呼ばれる時期があります。男性ホルモンの一種(テストステロン)が高まり、気が荒くなり、子を残すこと(繁殖)への関心が強まる、ゾウ特有の状態です。ケニアのアンボセリで、22年間に生まれた子119頭の父親をDNAで調べた研究があります。マスト中のオスほど、そして年上のオスほど、父親になる割合が高いことが分かりました(Hollister-Smith ら, 2007)。ゾウのオスは、長い一生のあいだ体が大きくなり続けます。そのため、「長く生きて大きくなること」そのものが、メスに選ばれやすさにつながっているのかもしれません。一方で、マストでないオスや若いオスが父親になった例もあり、「強い者だけが勝つ」という単純な話にはならないです。これは一つの地域の群れのまとまり(個体群)の結果です。ほかの地域にそのまま当てはまるかは、分かっていないです。

ザトウクジラ:流行が海を渡る歌

ザトウクジラのオスは、同じメロディーをくり返す、長い「歌」をうたいます。歌は、メスを引きつけるためか、オスどうしの力関係を決めるためのものと考えられています。ひとつの海のオスはみな、その時どきの同じ「流行りの歌」をうたいます。南太平洋で11年分の録音を分析した研究では、新しい歌のタイプが広がっていく様子がとらえられました。西のオーストラリア東岸から東へ、個体群から個体群へと、波紋のようにくり返し広がっていったのです(Garland ら, 2011)。親から子へではなく、仲間どうしで歌を学び合う「文化の伝わり方」を、これほど広い範囲で示した初めての例とされています。ただし、歌の本当の働きが、求愛なのか、オスどうしの張り合いなのかは、まだ決着していないです。また、クジラが実際にどこで歌を聞き覚えるのかは、録音の広がり方から推しはかったものです。

カモノハシ:卵を産み、性染色体は10本

カモノハシは、卵を産むのにお乳で子を育てる「単孔類」の仲間です。遺伝子をのせた、体の中の糸のようなもの(染色体)も独特です。ヒトの、性を決める染色体(性染色体)はXとYの2種類です。ところがカモノハシのオスは、Xを5本、Yを5本、合わせて10本の性染色体を持っています。オーストラリアの研究チームは、精子ができる時に、この10本が一本の鎖のようにつながることを示しました。XとYが交互に並んで分かれるので、Xを5本持つ精子とYを5本持つ精子が、きちんと作り分けられるのです(Grützner ら, 2004)。さらに、鎖の一方の端には、ヒトのX染色体と似た染色体がありました。反対側の近くには、鳥のZ染色体と似た染色体がありました。それまで別々に進化したと考えられていた、哺乳類と鳥の性染色体が、どこかでつながっているかもしれない、という発見です。ただし、この10本のうちどれが、オスとメスを決める遺伝子を持っているのかは、この論文の時点では分からないままでした。

ハダカデバネズミ:一匹の女王と、みんなの分業

東アフリカの地下で暮らすハダカデバネズミは、哺乳類では珍しい、「女王」のいる社会を作ります。野外から集めた40匹の群れを、実験室で観察した研究があります。子を産むメスは、たった1匹だけでした(Jarvis, 1981)。残りのオスとメスは、体の大きさと仕事の中身で、2〜3のグループに分かれていました。そして長く生き、世代を重ねながら、みんなで子の世話をしていました。アリやハチのような、群れで役割分担をして暮らす虫(社会性昆虫)とよく似た暮らし方です。この発見は、哺乳類の社会の見方を大きく変えました。ただし、これは一つの群れを実験室で観察した結果です。野生の群れでも同じ分業が成り立つかは、その後の研究に引き継がれました。

ここで面白いのは、子を残さない大多数の個体も、群れの一員として立派に役割を果たしている点です。子を残すことだけが、生き物の一生の値打ちを決めるわけではない。そのことを、デバネズミは静かに教えてくれます。

コウモリ:秋に受け取り、春まで貯める

四季のある地域(温帯)にすむ、虫を食べるコウモリの多くは、秋に交尾します。でも、メスが排卵するのは、冬眠が明けた春です。そのあいだ、精子はメスの体の中で冬を越します。コウモリの研究をまとめた総説によると、ヨーロッパのアブラコウモリの仲間では、精子がメスの体内で最長7か月ほど、オスの体内でも最長10か月ほど貯められていました(Racey, 1979)。飼育下のコウモリで、5か月貯めていたオスが、翌年の夏に父親になった実験もあります。えさの虫が減る冬を省エネで乗り切り、春の良い時期に子を産むための工夫と考えられています。ただし、総説自身も注意しています。精子が「貯まっている期間」と、「卵と結びつく力(受精能力)を保っている期間」は、同じとは限りません。受精能力まで確かめられた種は、まだ一部です。

「自然だから正しい」とは言えない

こうして並べてみると、哺乳類の性と子の残し方には、ひとつの「正しい形」など見当たりません。ただ、ここで気をつけたいのは、「動物がこうしているから、ヒトもこうあるべきだ」と考えてしまうことです。自然界にあることを、そのまま善悪の根拠にしてしまう考え方は、「自然だから正しい」と思いこむ落とし穴(自然主義の誤謬)です。ゾウのオスが年上ほど父親になりやすいからといって、年上の人が偉いわけではないです。デバネズミの女王のように、一人がひとりじめする形が正しいわけでもないです。動物の研究から学べるのは、「生き物の性には、こんなにも幅がある」という事実のほうでしょう。

そして、どの研究にも限界があります。観察できた数が少なかったり、飼育下のデータだったり、一つの地域の結果だったりします。「〜と分かった」の後ろには、いつも「今のところは」という言葉がかくれている。そう思って読むと、ちょうどよいかもしれません。

ヒトへのヒント 早く・たくさんのウサギ、22か月かけるゾウ、春まで待つコウモリ。同じ哺乳類でも、ペースもやり方もこれだけ違います。ヒトの性も同じで、回数や時期、一人で楽しむかどうかに、「みんなの正解」はないのかもしれません。人と比べるより、自分にとって心地よいペースを探してみましょう。一人の時間を楽しむことも、そのやり方のひとつとして、罪悪感なく大切にしてよいのではないでしょうか。

参考にした資料

📜 オナニー道の心得📓 記録アプリ「修行帳」