鳥の恋と子育て ― 「おしどり夫婦」の意外な素顔と、進化のふしぎ
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仲のよい夫婦を「おしどり夫婦」と呼ぶように、鳥は昔から、一途な愛の象徴として語られてきました。実際、鳥のおよそ8割の種では、オスとメスがつがいになり、二羽で協力してヒナを育てます。ところが、DNAで親子関係を調べる技術が広まると、その「一途さ」の中身は、思っていたより複雑だと分かってきました。4つの話題から、鳥の恋と子育ての素顔をのぞいてみます。
「一夫一妻」でも、ヒナの父親は一羽とは限らない
1987年、イエスズメの研究で、つがいの相手ではないオスを父親とするヒナがいることが、DNA鑑定ではっきり示されました。これを、つがいの相手以外が父親であること(つがい外父性)と呼びます。その後、150を超える研究をまとめた論文(レビュー)が出ました。つがい外の子が見つかった種は、およそ9割にのぼりました。暮らしの上では一夫一妻の種でも、平均すると11%を超えるヒナが、つがい外の子だったと報告されています(Griffith ら, 2002)。このレビューが示したのは、「いっしょに暮らすつがい」と「血のつながりの上での親子関係(遺伝的な親子関係)」を、分けて考える必要があるということです。一方で、まだ解き明かせていない課題も残りました。種によって割合が大きく違うのはなぜか。つがい外の子とそうでない子に、違いはあるのか、という点です。
その後、300種以上・500を超える研究をまとめ直したレビューも出ました。両親で子育てをする一夫一妻の255種のうち、76%でつがい外父性が見つかりました。見つかった種の平均では、ヒナの19%、巣の33%に、つがい外の子がふくまれていました。その一方で、つがい外の子がいる巣が5%未満という種も、3割ほどありました。ばらつきが、とても大きいのです(Brouwer & Griffith, 2019)。この研究では、北や南への位置(緯度)、子育てをする場所(繁殖地)の混み具合、渡りをするかどうかといった違いで、種ごとの差をはっきり説明することはできませんでした。データが一部の鳥の仲間や地域にかたよっていることも、著者ら自身が限界として挙げています。
研究者のあいだで今も意見が分かれているのは、メスにとっての得です。オスは子を増やせます。では、メスは? いろいろな遺伝子をもつ子(遺伝的に多様な子)を残せるという説。エサや守りを得られるという説。オスからのしつこい接近を避けた結果だという説。いろいろな説が並んでいますが、多くの種に共通する決め手は、見つかっていないです。
ここで気をつけたいのが、「鳥も浮気をするのだから、人も同じでかまわない」という読み方です。「自然界にあるから正しい」と考えるのは、「自然だから正しい」と思いこむ落とし穴(自然主義の誤謬)です。鳥の研究は鳥の暮らしを説明するもので、人の関係のあり方を決める物差しにはならないです。人どうしの関係では、おたがいの合意と信頼のほうが、ずっと大切です。
鳥のオスの多くには、外性器がない
鳥はすべて、体の中で卵と精子が結びつきます(体内受精)。けれど、交尾のときにメスの体の中へ差し入れる、体の外に出た性器(外性器)を持つ鳥は、全体のおよそ3%しかいないです。ほとんどの鳥は、オスとメスが「総排泄腔(そうはいせつこう)」という出口どうしを、短くふれ合わせて、精子を受け渡しています。
では、なぜなくなったのでしょうか。外性器をほとんど持たないキジの仲間(ニワトリなど)と、よく発達した外性器を持つカモの仲間で、胚(卵の中で育つ途中の体)を比べた研究があります。すると、ニワトリの胚でも、外性器のもとになる小さなふくらみは、いったんできていました。その後、決められたとおりに細胞が死んでいくしくみ(アポトーシス)によって、縮んでいくことが分かりました。引き金になっていたのは、BMP4という遺伝子の働きです。ニワトリの胚でBMPの信号をおさえると、ふくらみは縮まずに残りました。反対に、カモの胚でBMPの信号を強めると、ニワトリに似た細胞死が起きました(Herrera ら, 2013)。外性器は、伸ばすしくみがこわれたからというより、縮めるしくみが新しく加わったことで失われた、と考えられます。
ただし、この研究がくわしく調べたのは、キジの仲間とカモの仲間です。スズメなど、ほかの大きな仲間でも同じしくみで失われたのかは、まだ確かめられていないです。そもそも「なぜ」なくなるほうが有利だったのかも、決着していないです。メスによる選り好みと関係するという説をはじめ、いくつもの考え(仮説)があります。
カモの外性器をめぐる「進化の軍拡競争」
少数派である「外性器を持つ鳥」の代表が、カモの仲間です。カモのオスの外性器は、反時計回りのらせんの形をしています。長さは種によって、1.5cmほどから40cmを超えるものまであります。そして、その長さや形の複雑さは、その種でメスの意思に反した交尾、つまり交尾を強いる行動がどれくらい起きるかと関係していることが、以前から報告されていました。
そこでメスの側をくわしく調べたのが、ブレナンらの研究です。16種のカモを比べたところ、メスの卵や精子の通り道(生殖管)には、鳥では前例のない複雑な形が見つかりました。行き止まりの袋や、オスとは逆向きの「時計回り」のらせんです。さらに、オスの外性器が長い種ほど、メスの生殖管も複雑でした。オスとメスが、おたがいに影響し合いながら進化してきた(共進化)ことが示されたのです(Brennan ら, 2007)。ただし、これは種どうしを比べて、「両方がいっしょに見られる」ことを確かめた研究(相関の研究)です。どんなしくみがこの共進化を生んだのかを突きとめるのは難しい、と著者ら自身が述べています。
続く研究では、ノバリケンというカモのオスの外性器がのびる動きを、高速度カメラでとらえました。形の違うガラス管の中で、のびる様子を調べたのです。まっすぐな管や、反時計回りの管では、うまくのびました。一方、時計回りのらせんや、急な曲がりのある管では、うまくのびにくいことが分かりました(Brennan ら, 2010)。メスの複雑な形には、メスが受け入れていない交尾では受精しにくくする働きがある、という考えを支える結果です。とはいえ、ガラス管はあくまで模型です。生きたメスの体の中でどう働くかを、直接確かめたものではないです。
このように、オスとメスの利害の食い違いから、おたがいの体が張り合うように変わっていくことを、オスとメスの利害のぶつかり合い(性的対立)と呼びます。「進化の軍拡競争」とたとえることもあります。ただ、この共進化に、メスの選り好み以外の理由がどこまで関わっているのかは、まだ詰め切れていないです。
ニワシドリの「あずまや」と、目の錯覚
最後は、「建築」で求愛する鳥です。ニワシドリのオスは、小枝で「あずまや(バウアー)」を建て、まわりを石や貝殻などで飾ります。オオニワシドリのあずまやは、小枝の壁にはさまれた細い通路と、その先にある「中庭」でできています。メスは通路の中から、中庭で飾りを見せるオスをながめます。エンドラーらが調べると、オスは中庭の灰色や白の飾りを、通路の入り口から遠いものほど大きくなるように並べていました。こうすると、通路から見たときに飾りの大きさがそろって見えます。距離や大きさの感じ方がゆがむ、「強制遠近法」という目の錯覚の効果が生まれるのです。研究者が並び順を逆にしてみると、オスは3日ほどで元のような並びに戻し、2週間後にはほとんど元どおりになっていました(Endler ら, 2010)。ただし、この研究は、メスが実際に錯覚を感じているのか、それが何の役に立つのかまでは、確かめていないです。
続く研究では、メスの目から見た飾りの並びの「そろい具合」が、オスの交尾の成功と関係していることが報告されました。しかも、飾りの大きさの差そのものより、メスの位置からどう見えるかのほうが、成功のばらつきをよく説明していました(Kelley & Endler, 2012)。とはいえ、これは野外で調べた「いっしょに見られる関係」です。錯覚そのものが、メスが相手を選ぶ理由だとまでは言い切れないです。
飾り羽や求愛ダンスの話は、別の回「求愛と快楽の生き物学」で取り上げています。
鳥の恋から見えてくること
鳥の恋は、「一途」や「浮気」といった人の言葉だけでは、とらえきれない広がりを持っています。いっしょに子育てをする絆と、血のつながりの上での親子関係は、別々に動くことがあります。体の形でさえ、オスとメスの思わくのずれの中で変わってきました。どれか一つを「正しい鳥の恋」と呼べるものはありません。研究の多くも、新しいデータで見方が変わりうる段階にあります。
ヒトへのヒント:鳥の世界を見わたすと、恋や子育ての「正解のかたち」は一つではないようです。かといって、鳥のやり方を人の手本にする必要もありません。大切なのは、自分と相手が納得できるかどうかではないでしょうか。自分の性との向き合い方も同じです。一人の時間を楽しむこともふくめて、自分に合ったペースを探していけばよいのだと、編集部は考えています。
参考にした資料
- Griffith SC, Owens IPF, Thuman KA(2002)Extra pair paternity in birds: a review of interspecific variation and adaptive function. Molecular Ecology 11(11)
- Brouwer L, Griffith SC(2019)Extra-pair paternity in birds. Molecular Ecology 28(22)
- Herrera AM, Shuster SG, Perriton CL, Cohn MJ(2013)Developmental basis of phallus reduction during bird evolution. Current Biology(2013年6月オンライン公開)
- Brennan PLR ら(2007)Coevolution of male and female genital morphology in waterfowl. PLoS ONE(2007年5月2日公開)
- Brennan PLR, Clark CJ, Prum RO(2010)Explosive eversion and functional morphology of the duck penis supports sexual conflict in waterfowl genitalia. Proceedings of the Royal Society B 277(1686)
- Endler JA, Endler LC, Doerr NR(2010)Great bowerbirds create theaters with forced perspective when seen by their audience. Current Biology 20(18)
- Kelley LA, Endler JA(2012)Illusions promote mating success in great bowerbirds. Science 335(6066)